診断(予防•治療)

定期健診の個人のデータの重要性

「私の考え方」でも説明しましたが、診断には2種類あります。一つは治療のための診断ですが、もう一つは予防のための診断です。予防のための診断は乳幼児を含む他の患者さんに生かされます。
予防にとって重要なものは規則正しい生活習慣です。規則正しい生活習慣を守ることが基本ですが、具体的には、食生活習慣、口腔清掃、噛み癖、歯ぎしり、その他の生体力学的習癖があげられます。これらの項目を知るためにはどうすればよいのでしょうか?

診断の基本は、
  1. 問診
  2. 視診
  3. 触診
  4. レントゲン診断
  5. その他の検査所見
問診にはアンケートも含まれます。
上記の所見には比較のためのデータがあれば、診断の精度が高くなります。理想的には、健康でどこも悪いところがないと思われるときのデータがあればほぼ完璧です。正常値には個人差があるからです。
乳幼児期からの定期健診の経年的なデータがあれば完璧です。経年的に定期健診を受けられることをおすすめします。頭頚部において経年的変化をどのように把握すればよいでしょうか?

筋肉の使い方は、咬合の変化や骨の構造に蓄積されます

例えば、咬合の経年的な変化について考えて見ましょう。
咬合の三つの要素というのは、
  1. 歯・歯列
  2. 筋肉
  3. 顎関節
というのがこれまでの常識です。
ところが「無歯顎患者の補綴治療」で有名なバウチャーという総入れ歯(総義歯)の大家は、咬合の3要素として、
  1. 歯・歯列
  2. 神経筋機構
  3. 頭蓋顔面構造
をあげています。どちらが正しいのでしょうか?
歯は顎の骨に支えられています。顎の骨が偏位(位置をかえること)や変形をすると、歯も位置を変えて噛む合わせも変化します。

[右噛みの女性:青色は右側、赤色は左側]
[右噛みの女性:青色は右側、赤色は左側]

上の図をみると、左右の上下顎側空隙の大きさに差異があります。右側の青色の面積が、左側の赤色の面積よりも小さいことがわかります。これは「青色の右側の下顎」が「赤色の左側の下顎」よりもねじれ上がっているからです。歯の土台は顎の骨であることがわかります。もう少し詳しく述べると、歯の土台の基本的な構造は「頭蓋顔面構造」であることが理解できます。

頭蓋顔面構造が変化すると、噛み合わせも変化します。それでは頭蓋顔面構造に影響を与えるものはなんでしょうか。

頬杖や寝癖などの口腔外力を除けば、それは噛み癖(咀嚼癖)や歯ぎしりです。これらを私は「咬合力の癖」と呼んでいます。

「咬合力の癖」つまり噛み癖(咀嚼癖)や歯ぎしり(かみしめ•くいしばり)について考えて見ましょう。ブラキシズム(歯ぎしり)についての文献は多数ありますが、咀嚼癖とブラキシズムを同時に取り上げた文献はきわめて少ないのが現状です。

「左右均等にゆっくりと適度の力で食べている人」は少ないでしょう。誰でも何らかの噛み癖(噛む力、噛む速度、噛み方、右か左か、前か後ろかなど)を持っています。歯ぎしりには、「音のする歯ぎしり」と「音のしない歯ぎしり」があります。一見健康で問題がなさそうに見えても長年の習癖が積み重なると頭蓋顔面構造が変化します。

頭蓋顔面構造の変化はデジタルよりもアナログの解像度が高い

平成25年度生涯研修セミナーにおいて昭和大学放射線科の教授である佐野司先生は「アナログはデジタルよりも解像度が高い」ことを説明しています。空間周波数が高いことは解像度が高いことを意味します。下記のグラフから同一の撮影方法であればアナログはデジタルよりも解像度が高いことがわかります。

頭蓋顔面構造の変化はデジタルよりもアナログの解像度が高い

外後頭隆起

アナログがデジタルよりも解像度が高いことの利点は、外後頭隆起や顎角部の張り出しの画像の差に現れます。デジタルやCTではとばされて明瞭にでません。

1. 34歳男性外後頭隆起:後頭部にほぼ三角形に突き出しています
1.34歳男性外後頭隆起:後頭部にほぼ三角形に突き出しています

2. 後頭部に垂れ下がった隆起:44歳女性
2.後頭部に垂れ下がった隆起:44歳女性

3. 複数の外後頭隆起:53歳男性
3.複数の外後頭隆起:53歳男性

顎角部の隆起

※見た目よりもレントゲン画像が明瞭です。
1. 54歳男性
1. 54歳男性


2. 49歳男性
2. 49歳男性

3. 60歳男性
3. 60歳男性

骨の変化は筋肉の動きの積み重ねを意味します

我々の動きは主働筋と拮抗筋とのバランスによって成り立っています。

強く噛むと後頭部の筋肉が収縮してバランスをとります。歯ぎしりする人に肩こりが見られる理由も理解できます。

頭板状筋、頭半棘筋
頭板状筋、頭半棘筋
(上図は補綴臨床別冊「基本機能解剖」からの引用)

予防のポイント

臨床経験を積むとはどういうことでしょうか。多数のデータを蓄積することによって、放置したときの将来の病像が予想できることです。
最初のチャンスは乳幼児歯科健診です。小児科健診はどちらかと言えば、停留睾丸やダウン症など先天的な疾患が主体です。乳幼児歯科健診においては、そのときは異常の程度は小さいかほとんど現れませんが、将来の肥満や生活習慣病をもたらす病気の芽を見逃さないことが重要です。

生活習慣病の予防は乳幼児期から

リスクスクリーニングとしての乳幼児歯科健康診査の重要性について述べます。最初に乳幼児歯科健康診査の項目について説明します。

乳幼児歯科健康診査のポイント


1.歯の状態健全歯、要観察歯、齲歯処置歯喪失歯
2.齲蝕罹患型O1,O2,A,B,C1,C2
3.歯の異常癒合歯、先天的欠損、形成不全、形,大きさ、数
4.咬合異常反対咬合、上顎前突、開咬、叢生、切端咬合、
交叉咬合、過蓋咬合、捻転、狭窄歯列弓
下顎偏位
5.歯垢の有無咬合面、隣接面、歯頸部、口蓋側面、舌側面
6.歯肉炎の有無不潔性歯肉炎(単純性歯肉炎)、萌出性歯肉炎
7.軟組織の異常上唇小帯異常、舌小帯異常、歯根膿瘍
8.口腔習癖(生体力学的習癖)指しゃぶり、おしゃぶり、
歯ぎしり(かみしめ、くいしばり)、
舌癖、咬爪癖、片側咀嚼癖、開口癖、
下唇巻き込み癖、うつぶせ寝、口呼吸、
かじり癖(指、ハンカチ、おもちゃ)、
手枕、いびき、頬杖、下顎を前に突き出す癖、
テレビを見るときの頭部の位置、唇をなめる癖、舌を咬む癖


舌運動は顎口腔機能の基本です

1. 平成23年度から肺炎が死因順位の第3位になりました
平成22年度までの死因順位は、がん、心臓疾患、脳血管疾患でしたが、平成23年度から第3位に肺炎が上がりました。65歳以上の死因は肺炎による事が多く、誤嚥性肺炎が多く、誤嚥性肺炎は嚥下障害によります。
厚労省は自宅での看取りを推進しています。病院で死にたいものは誰もいません。NHKスペシャルで、どこも悪くはないが食べられなくなった高齢の男性は死を迎えました。これも嚥下障害です。嚥下障害はなぜ起こるのでしょうか。

嚥下障害は、
 ① 脳血管障害、口腔咽頭疾患などの器質的障害、
 ② 嚥下咀嚼に伴う神経筋の障害、
 ③ 老化による生理的な変化、
 ④ 痴呆症や神経系の病気、
 ⑤ 種々の医療処置(気管切開、経管栄誉、胃ろうなど)、
 ⑥ 薬物の副作用による唾液分泌の低下 
           
などが指摘されています。
弘前大学医学部歯科口腔外科学教室在籍中、入院患者を担当した経験から言うと、誤嚥性肺炎は口腔内が不潔の状態の患者さんが嚥下障害を起こしたときに起こりやすいことがわかっています。誤嚥性肺炎の予防は、口腔内を清潔にし、嚥下障害を予防することです。

2. 嚥下障害の予防の第1段階は乳幼児歯科健診での舌小帯短縮症のスクリーニング

ある文献には次のように記載されています。

嚥下機能障害のテストには反復唾液嚥下テスト(repetitive saliva swallowing test )がある。これは「30秒間に3回以上空嚥下ができれば嚥下機能に問題がない」とする方法で、いつでも簡単に試行できます。
嚥下障害が認められたときのリハビリテーションにシャキア法が知られています。「嚥下における舌骨の役割」という論文によると、これは舌骨上筋群の筋力トレーニングである。

 ①仰臥位で肩を床につけたまま、頭だけつま先が見えるまでできるだけ高く上げていく
 ②1分間挙位を保持した後、1分間休むことを3回繰り返す
 ③次いで、同じく仰臥位で頭部の上げ下げを30回連続して繰り返す
 ④上記の訓練を一日3回繰り返す

シャキア法は実際は負荷の大きい訓練です。その代わりに舌を口蓋に押し付けるといった訓練でも舌骨上筋群のトレーニングが可能であると記載されています。一般にベッド臥床を3日間しているだけで、下肢の筋力は10%程度低下すると言われているそうです。
舌骨は、オトガイから首に沿って指を這わせていくと、首へと曲がるところで、指を軽く押し付けると少し硬いものに触れるので確認できます。舌骨の上には舌骨上筋群(顎舌骨筋、顎二腹筋、オトガイ舌骨筋、茎突舌骨筋)付着していて、口を開けるとき収縮して舌骨を安定させ、一方では下顎骨を下に引くが、嚥下の際には下顎骨を安定させる。高齢になると舌骨が低位となり舌も引っ張られて低位となります。舌が低位となると、軟口蓋の閉鎖が難しくなりむせやすくなるといわれています。
私は幼児期からの舌のトレーニングで、将来の嚥下障害を予防できると考えています。そのためにはまず幼児歯科健診で舌小帯短縮症を見つけ出すことです。将来のために家族全員で舌のトレーニングを行うことを日常臨床では推奨しています。

3.舌の5段階トレーニングの効果

舌の5段階トレーニングは、矯正歯科専門医として有名な近藤悦子先生の方法を採用したものです。私は矯正歯科治療だけでなく広く応用している。

 ①舌打ち5回 
 ②舌を口蓋に押し付けること5回 
 ③舌の前方突出運動5回 
 ④舌で右の頬粘膜を押し付けること5回(舌右側側方運動)
 ⑤舌で左の頬粘膜を押し付けること5回(舌左側方運動)
 ⑥これらを1セットとして毎日5セット行う

発音・摂食・咀嚼・嚥下・呼吸など主要な顎口腔の機能には舌運動が関与しています。また舌根沈下は睡眠時無呼吸症候群の直接的な原因ともなっています。従って舌の5段階トレーニングの効果は下記の通りです。

 1.舌骨の低下を予防もしくは改善して嚥下障害を予防もしくは改善します
 2.唾液腺を刺激して唾液分泌を促します。口腔乾燥症の予防。齲蝕、歯周病の予防。入れ歯を使い易くします。(上顎総義歯は唾液の粘着性で保持されます)。また、咀嚼の際に、食塊形成に寄与します。
 3.摂食・咀嚼運動を円滑に行えます
 4.構音障害の予防もしくは改善に寄与します

高齢者対策を出口対策とすると乳幼児対策は入り口対策と言えます。出口対策のみでは際限がありません。乳幼児期から高齢期まで「舌のトレーニング」や「あいうえお発音練習」「風船を膨らませるトレーニング」を行います。
「口の中が渇いて、舌が痛い」という主訴で来院した79歳のおばあちゃんは、舌のトレーニングだけで治りました。他科を受診して異常がないと言われ、精神的なものが原因ではと診断されたといいいます。

4. 舌小帯短縮症例と構音障害

3年前にあるお母さんが5歳の男の子を連れて、「発音がおかしい」ことを主訴に来院しました。見ると、舌小帯短縮症です。

 ①ラ行、ナ行、タ行、サ行は口蓋前方部のスポットに舌尖部をつけます。舌の前方挙上トレーニングとしても行われています。
 ②カ行、ガ行、無声カ行は舌後方部と軟口蓋を使います
 ③サ行は、舌尖と上下顎前歯と口蓋前方部とで微妙な空気道を作って構音します
 ④発音の仕方と不正咬合とは、舌位や舌の動きなどで高い相関があると言われています

この子どもさんは、ラ行とサ行の発音が不明瞭でした。

構音障害には、

 ①機能性構音障害:原因がはっきりしていない構音障害
 ②運動性構音障害:音声器官の運動機能障害による発話の障害
 ③器質性構音障害:音声器官の形態異常により引き起こされる発音上の障害
 ④聴覚性構音障害:聴覚の障害による二次的な発音上の障害

まず、①舌のトレーニング ②あいうえお発音練習 ③風船による鼻呼吸のトレーニングを開始しました。これで改善する症例も少なくはなく、手術の必要はありません。特に機能性構音障害には有効です。これは術後のトレーニングとしても役立ちます。
上記のトレーニングで改善しないときは、舌小帯形成(切除)術を行います。
舌小帯形成術は以前はメスを使用して伸展術を施行していました。2000年頃からは炭酸ガスレーザーを用いています。

利点は下記の通りです。

 ①手術時間が短い。2−3分から数分で終わる 
 ②術後の出血がほとんどない 
 ③術後の疼痛がない 
 ④術後の抗生物質の投与が必要がない
 ⑤レーザーによる切開範囲も幅5mm、深さ2-3mmと小さく、術後の治癒がはやい
 
以前のように手術を施行するかどうかで迷うほどの苦痛はほとんどなくなりました。ただし、瘢痕治癒による後戻り防止とリハビリテーションを兼ねて術後の舌のトレーニングは必要不可欠です。
5歳の男の子は炭酸ガスレーザーで舌小帯形成術を施行して、術後のトレーニングも行い、発音不明瞭も改善しました。この子のお母さんに聞いて見ますと、1歳6ヶ月、2歳児、3歳児のいずれの歯科健診でも指摘されなかったということです。健診で指摘されないと母親は安心してしまいます。もし遅くとも3歳児歯科健診で指摘されていたら、構音障害はほとんど生じなかったと思われます。指摘されないときのリスクスクリーニングの欠陥についてはこれまで議論されたことはありませんでした。

健診におけるリスクスクリーニングについて

1. リスクスクリーニングのあり方について

リスクスクリーニングとは「疾病状態とは異なり、健康状態を把握するために行う」と、文部科学省、日本学校歯科医会、青森県歯科医師会、厚労省からの通達などにも記載されています。診療所に来院する患者には主訴があります。健診受診者には主訴がありません。診療所に来院する患者さんの診断よりも診断は難しいかもしれません。それを補うものがアンケートであり、主たる育児者の気づきです。歯科医師への相談という形で表現されることもあります。だからアンケトート所見と歯科医師への相談内容と診査所見は総合的に判断する事が必要です。

10年位前に、4歳の男の子を連れてきたお母さんに「歯ぎしり(かみしめ・くいしばり)をしていますね」と聞いてみると、「いいえ、していません」とのこと。次の来院時にお父さんが来たのでもう一度尋ねますと、「しています」ということです。前回お母さんに否定されたことを伝えると、「あいつは寝てしまうのでわからなかったんだろう」という返事でした。

平成23年度の2歳児歯科健診のときに、ある男の子の歯並びをみて、「何かかじっていませんか、タオルとかスプーンとか」と聞くと母親は即座に否定した。ところが一緒についてきた4−5歳のお姉ちゃんが「わたしタオルをかじっているのを見た」と叫んだ。私はいい子だと頭を撫でてあげたが、あとでお母さんに叱られたかもしれない。

お母さんは自分の子どもについて意外に気づいていないことがあるということを念頭におく必要があります。

平成23年8月、「歯科口腔保健の推進に関する法律」が制定され、乳幼児期から高齢期まで、時期ごとの口腔機能状態および歯科疾患の特性に応じた歯科口腔保健の推進が明示されました。
疾病状態の診断は軽症か中等度か重度かで診断します。健康状態の把握は、程度ではありません。年齢が若くなるほど、程度は軽くなります。ときに症状が全くないこともあります。重症度は予測しなければなりません。放置しても良いか、簡単な保健指導が必要か、精密に診断して治療が必要か。顎口腔の機能である発音・摂食・咀嚼・嚥下・呼吸などは不正の状態をできるだけ短期間にした方が、神経筋の間違った習慣性運動から解放できます。幼児歯科健診には将来予測の力が必要です。リスクスクリーニングとは、現在の状態から将来の健康状態の予測です。

2. リスクスクリーニングに基づく乳幼児の歯垢の有無

現在のむつ市の歯科の健診用紙は、平成9年に青森県歯科医師会が配布した「幼児歯科健診事後指導マニュアル-8020をめざして-」に基づいています。これは里帰りの子どもの様式と比較してもすぐれた様式です。
歯垢の量で評価する方法もあるが、乳幼児期の評価としては甘くなります。ムシ歯がゼロからムシ歯1本になるのと、ムシ歯3本から4本に増えるのとでは、同じ1本の増加であるが、質的に全く異なる。ムシ歯ゼロをめざすのであるから、1カ所でも歯垢が存在すればそれに起因した齲蝕が、更なる齲蝕増加の出発点となります。ムシ歯ゼロの状態を保つ期間が長いほど、ムシ歯になりにくい歯質に変わります。ムシ歯ゼロをめざし、それが不可能なときは最初のムシ歯をつくる時期をできるだけ減らすことが重要です。
口腔内の微生物は成人では300−400種類に及びます。
  1. 歯の咬合面の小窩裂溝にStreptococcus mutans、乳酸桿菌、放線菌群
  2. 歯の平滑面にStreptococcus mutans,Streptococcus sobrinus
  3. 象牙質には乳酸桿菌、線状微生物、Actinomyces viscosus,Streptococcus mutans
爪楊枝の先の歯垢の量は1mgであるが、1億から10億の微生物が存在すると言われています。私のところでは位相差顕微鏡で患者さんに口腔内の微生物を供覧しているが、他にらせん型のTreponema denticolaやカビの種類であるCandida albicansも認められます。Candida albicansの歯面への付着能力は高く、付着能力の低いムシ歯菌の補助因子となります。月に約450人前後の患者さんのうち全く歯垢を採取できないのは月にゼロか一人です。むつ市内で位相差顕微鏡を使用している歯科医院は、歯垢に対する感度は高く歯垢の所見獲得率は高いことがわかっています。

更なる問題は、むつ市の健康推進課では健診の前にブラッシング指導を行っている場合があることです。これは健診の常識に反します。しかも、普段歯磨きを励行していない場合は雑になりしかもやり過ぎとなり、わずかながら歯垢が残存します。またそのためにわずかに歯肉炎も生じます。

3. リスクスクリーニングに基づく乳幼児の歯肉炎の有無

乳幼児期には歯肉炎も量的な評価では妥当な評価はできません。歯肉は形態、色調、腫れ、光沢、硬さなどで評価します。幼児期の歯肉炎には不潔性歯肉炎と萌出性歯肉炎が認められます。この時期の一部の歯肉炎を放置すると学童期の歯肉炎につながり、成人の歯周病に移行する場合もあります。特に、上顎乳前歯部口蓋側歯肉と下顎乳臼歯部の遠心と頬側の歯肉に炎症が起きやすく、長く残存することがあります。またこれらの部位はムシ歯の初発部位でもあるので、齲蝕と歯肉炎とは関連性があります。

昭和59年からペリオⅠ型が保険に導入されて、磨き残しが20%以下になり、歯肉炎が改善され3ヶ月経過しなければ補綴処置(入れ歯やかぶせたりする治療)に移行できないという規則がありました。当院では毎月150−200人のペリオⅠ型患者さんが来院していたが、3ヶ月規則のため日に数人から10人いた新患の半数が来院しなくなるという経緯がありました。このときペリオⅠ型に取り組んだ歯科医院は全国で3%以下青森県では更に少ないと言われていました。ペリオⅠ型に取り組んだ歯科医師の歯肉炎に対する観察眼は高く、乳幼児歯科健診の歯肉炎の所見獲得率は高いという結果が得られています。この規則は平成8年から撤廃されました。健康な歯肉は淡いさくら色で引き締まっています。健診の日だけよく歯磨きをしても歯肉炎はごまかしが効きません。

繰り返すが健診時のリスクスクリーニングとは現在の状態から将来のリスクを予測することであり、隠された本質を見抜くことでもあり、小手先でごまかした状態に左右される程度の評価ではありません。

4. リスクスクリーニングに基づく乳幼児期の咬合異常と上下顎骨の成長発育

「乳幼児歯科健康診査における乳歯列不正咬合の判定基準と治療指針について」は、今から13年前の2002年にみちのく歯学会で発表しました。この内容を越える学会発表はまだありません。これは東京歯科と徳島大学の小児歯科学教室で発表した指針を参考にしたものです。これら2大学以外の発表はまだありません。私の発表は、みちのく歯学会以外に、小児歯科学会、東北矯正学会でも発表しました。

不正咬合の状態は発音や摂食・咀嚼などの神経筋回路の誤った習慣性運動を獲得してときに顔貌の変形も起こります。問題点の本質は、咬合異常が指しゃぶりなどの口腔習癖ひいては生体力学的習癖の表現型として我々の目に映るということです。例えば、上顎の狭窄歯列弓は指しゃぶりの結果として、過蓋咬合もしくは低い噛み合わせはかみしめ・くいしばりや下唇巻き込み癖の結果として起こります。不正咬合はその基礎的構造物である上下顎骨の偏位・変形を意味します。咬合異常と口腔習癖はリンクしているといえます。