2002年から無料で行っている乳歯反対咬合の治療

はじめに

むつ市で歯科医院を開業する前は、弘前大学医学部歯科口腔外科学講座から派遣されて公立野辺地病院に歯科口腔外科医長として勤務していました。当時は乳歯反対咬合の子どもさんが多かったので、治療を開始しました。したがって、乳歯反対咬合の治療については30年以上の経験があります。

上下のアゴが左右いずれかにズレているとき、上下のアゴの成長発育が左右のいずれかにかたより、発音や咀嚼などの神経筋肉の回路が誤った習慣性運動を獲得して、ときに顔貌(顔の形)の変形も起こります。

69歳右噛み男性 下のアゴが右(向かって左)ズレている

下のアゴが右側にねじれ上がっています。左右のアンテゴニオンを結んだ線(AN線)は右側に上がり、下顎は右側にねじれ上がっています。

69歳右噛み男性

乳歯反対咬合の治療の時期について

では上下のアゴが前後にズレたままで成長発育するとどうなるでしょうか?とくに下の前歯が上の前歯より前に出ているまま発育するとどうなるでしょうか?

下の前歯で上の前歯を抑制しているために、上のアゴの発育がおさえられます。模型でみるとつぶれたような形になります。それに伴って発音•摂食•咀嚼•嚥下•呼吸などの顎口腔の機能も異常な習慣を獲得していきます。45年位たつと下の口腔内写真やレントゲンのようになります。

反対咬合の50歳女性

反対咬合の50歳女性

反対咬合の50歳女性

小学校高学年の男児の反対咬合を治したとき、「こもった言い方」がなかなか改善しなかった経験があります。また、最終的には外科矯正という手術が必要になるケースもあります。

顎口腔の機能の正常化を考えると、不正な期間はできるだけ短縮して、可能な限り早い時期に反対咬合を正常咬合に回復する必要があります。理想的には乳歯列期に正常咬合に回復することです。

乳歯反対咬合の自然治癒率

乳歯反対咬合を放置したときに自然に治る割合を自然治癒率といいます。乳歯反対咬合の自然治癒率のデータをご存知でしょうか。

乳歯列不正咬合の専門家は小児歯科医ですが、矯正歯科医に相談する一般歯科医や父母が多いので、放置されている子どもさんたちが多数います。

放置されるとどうなるか自然治癒率を調べてみました。乳歯反対咬合の自然治癒率は古いデータでは高い値でしたが、1990年代以降のデータは2ー4割以下です。
  
  1939年 60ー70% 斉藤ら
  1963年  2/3   岩垣ら
  1993年   38%  浅野
  1996年  15.8%  永原


最近では6.4%というデータも散見されます。つまり、放置するとほとんどのケースは治らないということです。

乳歯反対咬合治癒後の成功率

乳歯反対咬合治療後を観察した結果は、成功率84%です。3歳から第三大臼歯である親知らず萌出完了する20代前半までの長期の観察結果で、きわめて信頼性が高いと思います。成功率9割以上という文献もあります。

乳歯反対咬合の自然治癒率

乳歯反対咬合治療後を観察した結果は、成功率84%です。3歳から第三大臼歯である親知らず萌出完了する20代前半までの長期の観察結果で、きわめて信頼性が高いと思います。成功率9割以上という文献もあります。

なぜ2002年から無料で乳歯反対咬合の治療をしているのか

下北で小児歯科学会に入会しているのは当院だけです。2002年以前は10万円で治療していました。これでも本格矯正治療50万円からみると1/5です。

セカンドオピニオンを求めて周囲の歯科医院を受診すると、「永久歯と生え変わるまで様子を見ましょう」と言われます。ほとんどの歯科医院で当院の考えは否定されます。しかし、学問的に正しいかどうかは多数決で決められる問題ではありません。冒頭にも言いましたが、「上下のアゴが上下左右いずれかにズレているとき、上下のアゴの成長発育が上下左右のいずれかにかたより、発音や咀嚼などの神経筋肉の回路が誤った習慣性運動を獲得して、ときに顔貌(顔の形)の変形も起こります。」

発音•摂食•咀嚼•嚥下•呼吸などの顎口腔の機能を早期に正常化するために、乳歯列で反対咬合を直してしまうのが理想的です。理解のない周囲の環境のせいで反対咬合の子どもたちを犠牲にするわけにはいきません。

2002年、自然治癒率も知らなかった歯科医師の不勉強な一言で、8割以上治療が進んでいた子どもさんが、中断したために後戻りしてしまいました。「これ以上犠牲者となる子どもをつくってはいけない」そう思って、無料で治療することにしました。

乳歯反対咬合の症例1

【症例1】 初診時 5歳11ヶ月女児

症例1 初診時 5歳11ヶ月女児

リンガルアーチ装着

リンガルアーチ装着

4ヶ月後

4ヶ月後

初診より2年後

初診より2年後

初診より4年後

初診より4年後

初診より5年後

初診より5年後

乳歯反対咬合の症例2

【症例2】 3歳男児(乳犬歯から乳犬歯まで反対)

症例2 3歳男児(乳犬歯から乳犬歯まで反対)

咬合挙上+マルチバンドブラケット装着

リンガルアーチとの比較
 
(欠点)
1. マルチバンドの装着に時間がかかる
2. セメントで完璧に封鎖しないとカリエスになる危険性がある
3. 見た目がよくない

(利点)
1. 治療期間を短縮できる
2. 装着後はワイヤーの交換だけですむ
3. 上顎全体の拡大が期待できる
4. ワイヤー交換以外は経過観察と口腔清掃だけですむ

咬合挙上+マルチバンドブラケット装着

4年後

10年後

10年後

乳歯反対咬合の症例3

【症例3】3歳2ヶ月女児(乳犬歯から乳犬歯まで反対)

【症例3】3歳2ヶ月女児(乳犬歯から乳犬歯まで反対)

2ヶ月後(リンガルアーチ装着)

2ヶ月後(リンガルアーチ装着)

6ヶ月後(リンガルアーチ除去、ムーシールド使用開始)

6ヶ月後(リンガルアーチ除去、ムーシールド使用開始)
6ヶ月後(リンガルアーチ除去、ムーシールド使用開始)

9ヶ月後

9ヶ月後

結論

乳歯列期で治すと本人の記憶にも残りません。できる限り早い時期に形態を正常に回復させて、発音•摂食•咀嚼•嚥下•呼吸といった顎口腔の機能を正常化することが大事です。当院では2002年から無料で乳歯反対咬合の治療をしています。