顎口腔機能障害(顎関節症)

顎口腔機能障害(顎関節症)の特徴

はじめに

腰痛、頭痛、ノイローゼ、不眠症、めまい、立ちくらみ、耳鳴り、難聴などが顎口腔機能障害(顎関節症)の合併症になることもあります。
顎口腔機能障害は、通称は顎関節症という名称で知られています。この名称から顎関節に限局する病気だと誤解されやすいのですが、下のアゴつまり下顎骨は全身のバランスを取っているという考え方があります。そのため症状が顎関節に限局する場合と全身に及ぶ場合とがあります。中には全身症状が先行する場合もあります。症状の範囲から次のように分類されます。

症状の範囲による分類

  1. 症状が顎関節に限局する場合
  2. 全身症状が先行する場合
  3. 顎関節の症状と全身症状が合併する場合
の3通りがあります。

症状が顎関節に限局する場合

口を開けてみて下さい。ガクンもしくはガクガクと顎の関節の音がしませんか?顎関節の音が聞こえたら、顎口腔機能障害(顎関節症)の疑いがあります。
その他に、口が開かない、口を開けるとき顎の関節が痛いなどの症状もありますが、顎関節雑音だけの場合が少なくありません。

【三大症状】
顎口腔機能障害(顎関節症)とは
  1. 顎関節雑音
  2. 顎関節痛
  3. 顎関節運動障害
を三大症状とする疾患です。

具体的に述べると、
  1. 顎の関節の音がする
  2. 口を開けると顎の関節が痛い、または筋肉が痛い
  3. 口が開かない
といった症状です。
この中で最も頻度が高いのは、顎関節雑音です。

全身症状が先行する場合

症例1は、右上の親知らずが挺出(下の方にのびて出てきた状態)したために腰痛になった症例です。
挺出した親知らずを抜歯したら、腰痛はおさまりました。

顎関節の症状と全身症状が合併する場合

【全身症状】ある先生の問診表を参考にしました。
当院では全ての新患にこのアンケートを行っています。

【腰痛などの全身状態】
  1. 背中、腰の痛み
  2. 胸の痛み
  3. なかなか寝つかれない
  4. 眠りが浅い
  5. イライラする
  6. 足をくじきやすい
  7. ギックリ腰
【眼の状態】
  1. めまい
  2. 立ちくらみ
  3. 眼の奥の痛み
  4. 太陽の光がまぶしい
  5. すぐに眼が充血して赤くなる
  6. 眼球の突出
  7. 眼が疲れやすい
【頭部の状態】
  1. 前頭部の痛み
  2. 側頭部の痛み
  3. 頭頂部の痛み
  4. 後頭部がズキズキする
  5. 偏頭痛
  6. 手のひらで触れると、頭髪または頭皮が痛く感じる
【口腔内の状態】
  1. 口の中に不快感が残る
  2. 口があけにくい
  3. スムーズに口をあけにくい
  4. やや大きめに口を開けたり、閉じたりすると、顎がひっかかる
  5. 顎がはずれる
  6. しっかり噛み合わせることができない
  7. 舌がもつれる
  8. 唇がしびれる
  9. 唇が一側に引っ張られる
    【歯ぎしりの状態】
    1. 気がつくと歯を強く噛みしめている
    2. 寝ているとき歯ぎしりをしている
    3. 奥歯に痛みを感じる
    4. 奥歯がゆれているように感じる
    【頚部の状態】
    1. 動きが悪く、つっぱる
    2. 首の痛み
    3. 首が疲れて痛い
    4. 首がこる
    5. 肩の痛み
    6. 腕、指がしびれる
    7. 首を動かしてこりを治そうとする
    【耳の状態】
    1. 耳鳴り
    2. 耳痛
    3. 難聴
    4. 耳がつまってむずがゆい
    【顎関節の状態】
    1. 口を開け閉じすると「カクン」または「ポン」と音がする
    2. 「ガリガリ」または「ザラザラ」音がする
    3. 頬の筋肉が痛い
    4. 自由に「あご」や「舌」を動かすことができない
    5. 顎(あご)の関節の部分が痛む
    【のどの状態】
    1. 物を飲み込みにくい
    2. 喉頭炎を起こしやすい
    3. のどが痛くなりやすい
    4. 話をしていて声がかわる
    5. ひんぱんに咳がでる
    6. つねに異物感がある
    7. 痰(たん)のきれがわるい
    8. 息をするのが苦しいときもある
    【鼻の状態】
    1. 鼻がつまる
       口呼吸の可能性あり

      結論

      顎関節症を顎口腔機能障害として、頭痛、腰痛、耳鳴り、難聴、首が凝る、腕や指のしびれなどの全身症状を含む疾患として対応する必要があります。次に小学校の実態調査を示しますが、小学生にすでに顎口腔機能障害の徴候と症状が認められます。

        小学生の顎関節症の実態調査

        平成16年調査、平成17年補綴学会で発表した内容を基に説明します。

        むつ市立第二田名部小学校の「顎関節症と歯ぎしりの調査」について
        [学年別回答者数(454/461)]
        学年別回答者数(454/461)

        [アンケート調査に協力した児童数(98.5%)]
        アンケート調査に協力した児童数(98.5%)

        [最大開口量の平均(mm)]
        最大開口量の平均(mm)

        (愛知学院大学小児歯科学講座 吉田良成:小児の最大開口量
        に関する研究、小児歯誌,37(4):753-760,1999)

        [顎関節症状の判定]
        Ⅰ関節雑音
         1.口を開け閉じすると「カクン」または「ポン」と音がする
         2.「ガリガリ」または「ザラザラ」音がする

        Ⅱ.関節痛
         1.顎(あご)の関節の部分が痛む

        Ⅲ.開口障害
         1.口があけにくい
         2.スムーズに口があけにくい
         3.やや大きめに口を開けたり、閉じたりすると、顎がひっかかる


        [歯ぎしりの自覚症状]

        1.気がつくと歯を強く噛みしめている
         (昼の歯ぎしり)

        2.寝ているとき歯ぎしりをしている
         (夜の歯ぎしり)

        [第二田名部小学校3年生以上]
        顎関節症

        57/454=0.12555066 12.5%
        女児 5.9% 男児 6.6%

        歯ぎしり
        28/454=0.061674 6.2%
        女児 3.1% 男児 3.1%

        顎関節症+歯ぎしり
        6/454=0.01321585  1.3%
        6/57=0.105263315  10.5%


        [3年生以上の顎関節症]
        1.右側 31/57 54.3%
        2.左側 9/57 15.8%
        3.両側 12/57 21.1%
        4.不明 5/57 8.8%


        [3年生以上女子の顎関節症]
        1.右側 31/57 54.3%
         右女児 15/31 48.4%
        2.左側 9/57 15.8%
         左女児 4/9 44.4
        3.両側 12/57 21.1%
         両女児 5/12 41.7
        4.不明 5/57 8.8%


        [顎関節症学年別分布]
        顎関節症学年別分布

        [歯ぎしりの分布()内は女児]
        歯ぎしりの分布()内は女児

        [三大症状の分布]
        三大症状の分布

        [顎関節症と筋圧痛(左右合計)]
        顎関節症と筋圧痛(左右合計)

        アンケート調査結果

        [全身状態]
        1.背中、腰の痛み     7( 1.5%)
        2.胸の痛み       15 ( 3.3%)
        3.なかなか寝つかれない 22( 4.8%)

        4.眠りが浅い     109( 24.0%)
        5.イライラする     39( 8.6%)
        6.足をくじきやすい   84( 18.5%)
        7.ギックリ腰      49( 10.8%)


        [眼の状態]
        1.めまい      15(3.3)
        2.立ちくらみ    24(5.3%)
        3.眼の奥の痛み    9(2.0%)
        4.太陽の光がまぶしい 48(10.6%)
        5.すぐに眼が充血して赤くなる  10(2.3%)
        6.眼球の突出    1(0.2%)
        7.眼が疲れやすい  87(19.2%)


        [頭部の状態]
        1.前頭部の痛み    15(3.3%)
        2.側頭部の痛み    18(4.0%)
        3.頭頂部の痛み    14(3.1%)
        4.後頭部がズキズキする  6(1.3%)
        5.偏頭痛       20(4.4%)
        6.手のひらで触れると、頭髪または頭皮が痛く感じる   8(1.8%)


        [口腔内の状態]
        1.口の中に不快感が残る   16(3.5%)
        2.口があけにくい       6(1.3%)
        3.スムーズに口をあけにくい  2(0.4%)
        4.やや大きめに口を開けたり、閉じたりすると、顎がひっかかる 10(2.2%)
        5.顎がはずれる      1(0.2%)

        6.しっかり噛み合わせることができない 63(13.9%)
        7.舌がもつれる     6(1.3%)
        8.唇がしびれる     2(0.4%)
        9.唇が一側に引っ張られる 1(0.2%)


        [歯ぎしりの状態]
        1.気がつくと歯を強く噛みしめている 8(1.8%)
        2.寝ているとき歯ぎしりをしている 22(4.8%)
        3.奥歯に痛みを感じる    21(4.6%)
        4.奥歯がゆれているように感じる 9(2.0%)


        [頚部の状態]
        1.動きが悪く、つっぱる  0 
        2.首の痛み       16(3.5%)
        3.首が疲れて痛い    27(5.9%)

        4.首がこる       58(12.8%)
        5.肩の痛み       21(4.6%)
        6.腕、指がしびれる   27(5.9%)
        7.首を動かしてこりを治そうとする 91(20.0%)


        [耳の状態]
        1.耳鳴り   96(21.1%)
        2.耳痛    16(3.5%)
        3.難聴    18(4.0%)
        4.耳がつまってむずがゆい 16(3.5%)


        [顎関節の状態]
        1.口を開け閉じすると「カクン」または「ポン」と音がする 30(6.6%)
        2.「ガリガリ」または「ザラザラ」音がする 6(1.3%)
        3.頬の筋肉が痛い 0.6(%) 
        4.自由に「あご」や「舌」を動かすことができない 2(0.4%)
        5.顎(あご)の関節の部分が痛む 12(2.6%)


        [のどの状態]
        1.物を飲み込みにくい    14(3.1%)
        2.喉頭炎を起こしやすい   21(4.6%)

        3.のどが痛くなりやすい   59(13.0%)
        4.話をしていて声がかわる  32(7.0%)
        5.ひんぱんに咳がでる    22(4.8%)
        6.つねに異物感がある    18(4.0%)
        7.痰(たん)のきれがわるい 52(11.5%)
        8.息をするのが苦しいときもある 24(5.3%)


        [鼻の状態]
        1.鼻がつまる  161(35.5%)
         
        口呼吸の可能性あり

        むつ市の過去の調査から

        [むつ市の過去の調査から]
        1.小学校306人(男児162人、女児144人)
         TMD 4.9%
         ①顎関節雑音 4.2%
         ②顎関節痛  0.7%
         ③開口障害   0%

        2. 高校生679人(男子285人、女子394人)
         TMD 28.4%
         ①顎関節雑音 23.4%
         ②顎関節痛   2.7%
         ③開口障害   2.4%


        (松島静吾:むつ市内の児童・生徒にみられた顎関節症の頻度.岩医大歯誌,22:251-255,1997))

        [二つの適応]
        1.積極的適応ー本質的に改善して症状が消失するか改善する
        2.消極的適応ー本質的には改善しないかむしろ潜在化するが、症状は見かけ上改善する
        消極的に適応した小学生は、症状はマスクされるが、後に重症化して発症することがあります。

        [二つの開口障害]
        小学生のときは、開口障害が著明でない場合があります。
        1.定量的開口障害
         若年者は適応能力が高い
         一時的には最大まで開く


        2.定性的開口障害
         開きにくい
         開く時ひっかかる


        定性的開口障害の時期に原因の治療に入ると、治癒するか重症化を予防できます。

        [アンケート法の特徴]
        1.回答者の感受性に影響される.
        2.既往までも含めた回答になりやすい
        3.大規模校ほど効率がよい
        4.自覚症状が主体となる

        5.調査項目を単純化しないと回答に誤差が生ずる
        6.臨床診断法で補うと精度が高くなる
        7.担任の先生の理解と対応に影響される


        [顎関節雑音検査]
        1.問診法(アンケート法)
        2.直接聴取法

        3.聴診法
        4.触診法
        5.ME機器による方法
        (「よくわかる顎口腔機能」日本顎口腔機能学会編、医歯薬、2005)


        [聴診法の特徴]
        1.患者さんが自覚していても、術者が聴取できない場合がある
        2.皮膚との摩擦音や関節雑音以外の音が混入する場合がある
        3.集団検診の人数が多いと労力を要する
        (「よくわかる顎口腔機能」日本顎口腔機能学会編、医歯薬、2005)

         平成16年以降、毎年歯科健診のときに、聴診法で顎関節の診査を行っています。耳が痛くなるので、時々左右を交代して聴いています。

        [外側翼突筋の圧痛]
        頬粘膜、頬筋、内側翼突筋を介して行われる
        外側翼突筋の圧痛

        [特記事項]
        1.関節雑音を自覚していない児童が多かった。
         普段は自覚していたが、健診の日に聴取されなかった児童も数人認められた。
        2.聴診法では関節雑音を聴取された児童が大幅に増加した。
        3.関節雑音が1−2回聴取されたが、その後の開閉運動で消失した児童も
         比較的多かったが、確認している間に下顎運動の歪みが取れていく児童
         が多かった。


        [小学生の顎関節症の調査の意義]
        1.調査することによって、顎関節症への意識が高まり、特に下顎骨の変形やねじ
         れを予防する機会が与えられます。

        2.下顎骨のねじれによって引き起こされる病的な下顎運動も予防する可能性が
         高いと思われます。
        3.上記の原因となっている生体力学的習癖を意識させて矯正もしくは改善する
         機会を与えることになります。

        症例1:親知らずが原因の左側顎関節症

        初診時30歳女性

        [初診時症状]

        1. 左側顎関節痛
        2. 左側耳鳴り
        3. 左側顎関節雑音
        4. 首の痛み
        5. 首が凝る
        6. 開閉時に顎引っかかる
        7. しっかり噛み合わせることができない
        8. 背中や腰が痛い

        [全身既往歴]
        一年前右上の親知らず抜歯で腰痛治癒

        [一年前来院時パノラマ]
        一年前来院時パノラマ

        [右側顎関節のレントゲン写真]
        右側顎関節のレントゲン写真

        [左側顎関節のレントゲン写真]
        左側顎関節のレントゲン写真

        [スプリント装着1ヶ月半後]
        ほとんどの症状消失
        食事のときに左側が低く、咬合が不安定はあったが以後来院せず
        [経過]
        1年前は顎関節に先行して腰痛という全身症状が出現した。これは親知らず抜歯によって症状が消失した。以後来院しなかったが、1年後に上記の症状が出現した。スプリント装着1ヶ月半後にほとんどの症状が消失した。

        症例2:しびれを伴う右側顎関節症

        50歳女性

        [主訴]
        顔面半分がしびれる

        [現病歴]
        1月頃から顔の右半分が、いつもではないが、ジワーとしびれる。MRI,CTでは脳に異常所見は認められなかった。噛み合わせが原因ではないか、と言われた

        [既往歴]
        高血圧、糖尿病

        [生体力学的習癖]
        1.右の噛み癖
        2.左手頬杖
        3.右横向き寝、
        4.ナッツ類を好む
        5.いびき
        6.夜中覚め

        [初診時]

        初診時所見

        [初診時所見]
        1.顔貌非対称
        2.開口度 41mm
        3.顔色 良好
        4.貧血 なし
        5.顎関節雑音 R++,L++
        6.顎関節運動時痛 なし
        7.外側翼突筋圧痛 R++,L++
        8.口渇 なし
        9.鼻閉感 ときどき 蓄膿症
        10.肩こり あり

        [治療]
        1. ブリッジと部分入れ歯の製作
        2. ソフトレーザーによるツボ刺激療法

        [経過]
        3ヶ月後にほとんどの症状消失

        症例3:左側咬合の高径低下

        32歳の男性

        [主訴]
        左下6番7番をかぶせなおしてから噛み合わせが低い

        [初診時の症状]
        1.左側外側翼突筋、左側顎二腹筋に圧痛あり
        2.眼が疲れやすい
        3口が開けにくい
        4.スムーズに口を開けにくい
        5.やや大きめに口を開けたり、閉じたりすると、顎が引っ掛かる
        6.しっかり噛み合わせることができない
        7.鼻がつまる
        8.口を開け閉じすると「カクン」または「ポン」と音がする
        9.左側顎関節の部分が痛む
        10.喉頭炎を起こしやすい
        11.のどが痛くなりやすい
        12.長話をすると声がかわる
        13.頻繁に咳きがでる

        [治療中の症状]
        1.左側外側翼突筋に圧痛あり
        2.口が開けにくい
        3.スムーズに口を開けにくい
        4.背中、腰の痛み
        5.鼻がつまる
        6.口を開け閉じすると「カクン」またはポン」と音がする
        7.喉頭炎を起こしやすい
        8.のどが痛くなりやすい
        9.長話をすると声がかわる
        10.頻繁に咳きがでる

        左側顎関節症の32歳の男性症例

        左側顎関節症の32歳の男性症例

        左側顎関節症の32歳の男性症例

        [原因]
        噛み合わせが低い⎾67Crの装着が引きがねになったと思われる。
        このエラーは
        1. 咬合採得のとき
        2. ⎾67Cr装着時に起こりやすい。このような症例は意外に多い。

        私は1990年からエナメルアイランドをバイトストップと名づけて咬合高径が低下しないように注意している。

        [経過]
        1. ⎾67Cr再製作
        2. 4−5ヶ月後ほとんどの症状消失